聴覚の不思議
2010年10月13日(水) 記 : アドバイザー

 正常な聴覚は非常に高度な情報処理機能を持っています。聴覚で捉えられた情報は頭 脳の言語野部分を経由し大脳に直行しています。人が聞いている音は物理的に発生して いる音ではなく、聴覚と大脳言語野と大脳新皮質が有機的に情報処理した結果を人は聞 いていると思っています。

 熱心な生徒が先生の声を聞きたくても、他の生徒がおしゃべりすると、ほとんど聞き 取れなくなります。このような、聞きたい音が雑音で邪魔されるのをマスキング効果と 呼びます。注意力を高めると、短時間なら聞きたい人の声は聞き分けられます。好きな 異性のおしゃべりは、他人が騒いでも聞き取れるわけです。これをカクテルパーティ効 果と呼びます。話者の声は静かな環境と、雑音がある環境で変わります。先生の声は煩 いクラスと静かなクラスで違っています。これをコンバート効果と呼びます。声の発生 は聴覚に影響されています。

 聴覚は実際の環境で起き易い条件を常に計算しています。連続音声録音から周期的に 一定間隔で消去します。例えば0.1秒周期で無音の期間を挿入します。音の部分が50 %以下になると意味が分からなくなります。しかし、無音の部分に雑音を入れると、一 定期間ごとに煩い音が聞こえますが、消されたはずの音声が滑らかに繋がり、理解でき るようになります。消された音声を聴覚が自動的にゼロから再現するわけです。これは 錯覚とも言えます。意識せず、聴覚システムは雑音の部分の音を、前後から解釈し、補 っています。現実の世界は雑音が多く、大きな音がたくさん存在しているからです。聞 きたい会話に雑音が重なると意味が分らなくなるため、補完機能があるわけです。知覚 システムは極めて高度です。残った断片的な情報を常に組み立てて判断しています。

 UCLAの大学病院の脳神経外科関係では聴覚の先進的な研究をしています。アルコール 中毒の人や、ヘビースモーカーの人や、シンナー遊びを若いときにしていて亡くなった 方の脳の顕微鏡写真をいろいろ調べ、薬物は頭脳のシナプス結合だけでなく、脳神経細 胞を破壊することが分ってきました。健常者の耳の中にある蝸牛器の聴覚細胞はアンモ ナイト状に綺麗に並んでいます。一方、薬物やアルコールやタバコの中毒者の蝸牛器細 胞の行列はスポンジのように侵食されています。若いときに、聴覚細胞がスポンジ状に ならなくても、年を取ったとき、認知症になる確率は極めて高くなるそうです。子供や 若い人に薬物やタバコやアルコールは危険であることがよく理解できます。